|
塗料の製造および施工現場では、「施工の煩雑さ」と「基材適応性の低さ」が長年にわたる主要な課題でした。従来の塗料は高温硬化設備に依存し、エネルギー消費が大きく、作業工程が長いという問題を抱えています。また、基材の表面特性の違いにより、金属への密着不足や PP・PC などのプラスチック基材への「密着不良」が発生しやすく、製品品質や生産効率に深刻な影響を与えていました。
この課題に対し、Si–N結合を含むポリシラザンは、「施工の容易さ」と「あらゆる基材への適応性」を兼ね備えた画期的なソリューションを提供します。その最大の特徴は、分子構造内に存在する Si–NH–Si結合 にあります。高温焼成を必要とせず、常温環境下で空気中の水分と反応して加水分解・酸化硬化が進行するため、高温設備への投資やエネルギーコストを大幅に削減し、施工時間も短縮可能です。工場での量産から現場での応急塗装まで、柔軟に対応できるのが大きな利点です。
さらに、このポリシラザンは分子鎖が基材表面の –OH 基と化学的に結合する特性を持ちます。炭素鋼やアルミ合金などの金属基材では、密着層を形成して剥離を防止し、ガラスやセラミックなどの無機基材にもシームレスに密着します。極性が低く、従来は密着が困難だった PP や PC などのプラスチック基材に対しても、「密着しない」という技術的な壁を突破。剥離強度は一般的な樹脂を大きく上回り、圧倒的な密着性能を実現します。
また、性能調整が可能な点もこの素材の大きな特長です。酸性・アルカリ性、あるいは有機金属系触媒を精密に添加することで、硬化速度を数時間から数十時間まで自由に制御でき、用途や作業リズムに合わせて最適化が可能です。さらに、触媒によって分子間に三次元架橋構造が形成され、硬化後の塗膜は機械的特性が大幅に向上します。鉛筆硬度は2H以上、耐衝撃強度は35%向上し、優れた柔軟性も保持。基材のわずかな変形にも追従し、ひび割れを防ぐことができます。機械部品や電子部品など、塗膜性能が厳しく求められる分野にも最適です。
施工性においても優れています。常温での粘度は 5〜15 mPa・s と低く、流動性が高いため、エアレススプレー、浸漬、刷毛塗りなど多様な方法に対応します。塗膜は均一で、たれ・ピンホール・オレンジピールなどの欠陥が発生しにくく、施工難度と廃棄率を大幅に低減。硬化後の塗膜は「総合防護性能」を発揮します。中性塩水噴霧試験では1000時間経過しても錆や膨れが見られず、海洋・化学環境などの厳しい腐食条件にも耐えます。表面張力が低いため、油汚れや埃が付きにくく、簡単に拭き取ることができ、メンテナンスコストも削減可能。また、酸素指数が 32%以上 と高く、優れた難燃性能を有し、防火性が求められる電子機器や自動車分野にも対応します。
家電のプラスチック外装塗装、自動車用金属部品の防錆コーティング、電子基板(PCB)の絶縁保護コーティングなど、用途は多岐にわたります。Si–N結合を有するポリシラザンは、常温硬化・全基材適応・性能可調・多機能という特長を兼ね備え、生産効率の向上、密着不良の解消、塗膜性能の強化を同時に実現。塗料原料分野における「全場面対応型」の代表的素材として、各産業の塗料技術アップグレードを力強く支えます。
|