米国環境保護庁(EPA)はこのほど、有害物質規制法(TSCA) の枠組みに基づき、オクタメチルシクロテトラシロキサン(D4、CAS番号:556-67-2) に関するリスク評価草案を公表し、同時にパブリックコメントの募集を開始した。この動きは、米国が**世界貿易機関(WTO)**に提出した技術的貿易障壁に関する補足通知によって確認され、D4規制の国際的な協調が新たな段階に入ったことを示している。
ライフサイクル全体を対象 ― 予備的結論:二重のリスク
今回の評価は、メーカーからの要請に基づきEPAが開始したもので、D4の「使用条件(COUs)」に焦点を当てている。生産、加工、輸送、使用から廃棄までのライフサイクル全般を対象とし、産業現場での作業規範や消費財への配合割合など具体的な応用も含まれる。現有の科学的証拠に基づき、EPAは**「D4は人の健康および生態環境に不合理なリスクをもたらす可能性がある」**との予備的結論を下した。
この評価は国際的な研究結果とも一致している。PubMedに掲載された長期毒性研究では、高濃度のD4曝露が雌の生殖系に障害を与え、肝臓や腎臓に異常を引き起こす可能性があることが示された。EUはすでにD4を**「生殖能を損なう可能性がある」物質かつ「水生生物に対して長期的に極めて有害」な高懸念物質(SVHC)に分類している。特筆すべきは、EPAが今回の評価で、職場における個人用保護具(PPE)**の適切な使用を当然とはみなさず、実際の曝露リスクをより厳格に評価すると強調している点である。
10の重点意見募集 ― 規制プロセスの透明化
評価草案はすでに米国政府の公式ウェブサイト(https://www.regulations.gov)で公開されており、一般市民は10の重要項目について意見を提出できる。これには、薬物動態モデルの適用、ハザード同定の正確性、曝露管理措置の有効性、生物蓄積性データの完全性などが含まれる。EPAは、寄せられた意見が最終評価の改善に重要な役割を果たすと述べており、今後はピアレビューも実施し科学的妥当性を確保する予定だ。
世界的な規制の歩調 ― 化粧品業界などに転換圧力
今回の米国の動きは孤立したものではなく、世界的なD4規制強化の一端である:
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EU:2024年に採択されたREACH規則改正により、2026年からは濃度が0.1%以上のD4を含む化粧品などの流通が禁止され、2027年にはほぼすべての消費財に対象が拡大される。
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中国:国家食品薬品監督管理総局は最近公表した化粧品規格の意見募集稿で、D4を禁止原料リストに加える提案を行った。
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EUはすでに化粧品規則でD4を禁止しており、中国ブランドの**花皙蔻(Florasis)**は2019年に自主的に配合を中止しており、EUの規制より3年早い対応であった。
「D4の持続性、生物蓄積性、潜在的毒性こそが世界的な規制強化の根本理由である」と業界アナリストは指摘する。この物質は大気を通じて長距離移動し、北極圏のような遠隔地でも検出され、自然分解が困難である。これにより化学業界や化粧品業界は代替製品の開発を進めており、InnospecのVolasil 8100やIOTAのDM 55などが、使用感を維持しつつD4機能を代替できる製品として登場している。
企業への提言
専門家は、企業に対しEPAの評価草案の進展や各国の禁止スケジュールを注意深く追跡することを推奨している。原料の代替や処方の早期切り替えを進めることで、越境取引におけるコンプライアンスリスクを回避することが重要である。
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