塗料の処方設計において、分散剤とレベリング剤はいずれも機能性添加剤に分類されますが、
その作用対象・原理・効果は大きく異なります。
両者を正しく理解し、適切に使い分けることが、塗料性能を最適化する鍵となります。
1.基本定義:作用対象の明確な違い
分散剤(Dispersant)
顔料や充填剤などの固体粒子表面を改質する添加剤です。
主な目的は、粒子間の「凝集・沈降」問題を解決し、粒子を均一に分散させ、安定した懸濁状態を維持することです。
レベリング剤(Leveling Agent)
塗料膜の表面状態を制御する界面調整剤です。
塗布後の液状塗膜の流動性と平滑性を改善し、刷毛目やオレンジピールなどの表面欠陥を防止します。
2.作用メカニズム:異なる技術的アプローチ
分散剤 ―「電荷+空間障壁」による二重安定化
レベリング剤 ―「表面張力+レオロジー」の二軸最適化
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表面張力の低減: 塗料と基材の間の張力差を減少させ、ピンホールやクレーター(魚眼)を防ぎます。
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流動特性の制御: 塗膜の流動時間を延長し、乾燥前に刷毛目などの施工痕を自己修復させます。
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相溶性の向上: 塗料中の各成分の相溶性を改善し、表面の粗さやムラを防ぎます。
3.機能効果:解決する課題の違い
分散剤の主な効果
レベリング剤の主な効果
4.選定のロジック:用途に応じた最適選択
分散剤の選定指針
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無機顔料(例:酸化チタン)には電荷安定型分散剤を推奨。
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有機顔料(例:カーボンブラック)には空間障壁型分散剤が適切。
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水系塗料には水系分散剤(ポリアクリレート系など)を、
溶剤系塗料には溶剤適合型分散剤(ポリウレタン系など)を使用。
レベリング剤の選定指針
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刷毛塗り・ローラー塗装にはアクリル系レベリング剤(刷毛目防止)。
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スプレー塗装にはシリコーン系レベリング剤(クレーター防止)。
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高光沢塗料にはポリエーテル変性シリコーンを、
つや消し塗料には消光剤と相溶性のあるタイプを選択。
5.まとめ:代替ではなく、相互補完
分散剤とレベリング剤は同じ添加剤系統に属しますが、
作用段階と目的がまったく異なります。
分散剤は主に塗料の製造・貯蔵段階で作用し、顔料分散の安定性を確保します。
レベリング剤は塗装・乾燥初期段階で作用し、塗膜表面の平滑性を確保します。
両者は相互補完的に使用する必要があります。
顔料が十分に分散されてはじめて、レベリング剤の表面調整効果が最大限に発揮され、
結果として塗料の「安定した保存性」と「美しい外観」の両立が実現されます。
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